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1 亡霊の呪い

ある町にお城のような美術館がありました。管理人の小倉さんは六十をすぎてからここに勤め始めて、今年で五年目になります。
小倉さんはある日、奥さんに靴下がぬぎっぱなしだと注意されて、「かたづけようと思っていたんだよ」と、ぷんぷんしながら倉庫の床をけとばしました。すると、靴がすっぽ抜け、すみっこにあったツボにぶつかり…まっぷたつに割れてしまいました。

亡霊の呪い1

小倉さんがあわてていると、もくもくと白い煙が出てきて、
「なにするんだよ」と叫びながら、男の人が姿を現しました。30歳くらいでしょうか。

亡霊の呪い2

「このツボは僕の最後の作品で最高傑作なんだ。仕上げたとたんに、ウッとなってこの世をさったんだ。この世に未練がたらたらで、成仏できずにツボにとりついていたんだよ。そしたら、あんた、あんた…おーいおいおいおい」
「…君はつまり、亡霊なのかい?」
 しかし亡霊はおいおいと泣くばかり。
「…ツボを直さなければならないけど…」
「か、簡単に直るわけないだろ。直せる技術のある人物を探さなければならない」
「…技術のある人物を探すのは私の力だけでは…」
小倉さんはもぞもぞ言いました。
「呪いをかけてやる。あんたは僕の言いなりに絵を描く。僕が絵に本物になる呪文をかけ、僕が乗り移り、修復できる人を探しに行くんだ、いいな」
「え…それは…」
「むりなら、僕はあんたにとりつくまでだ。ツボを割ったのはあんただ」
「と…とりつく?」

亡霊の呪い3

亡霊の鋭い目でにらみつけられて小倉さんは逃れられないと思いました。
「わかった。悪いのは私だから、できるだけ君の助けになろう。ところで、…君をなんと呼べばいいのかな。私のことは、小倉さんと呼んでくれないか。私の方が年上なんだから、妥当だと思うんだが」
「ふん…僕は…だれなんだ?」
 とても頼りなげな顔をしたので、小倉さんはかわいそうになりました。この年で、これからというときに、亡くなってしまったのでは未練が残っても当然でしょう。
「ま、…それはそのうち思い出せばいいよ。まず手始めに… 陶芸をやっている知り合いがいるから、その人なら何か知っているかもしれない」
「ふん、わかった、じゃあ犬を描け、僕は犬に乗り移る」
「犬…じゃあ、スピッツはどうかな」

亡霊の呪い4

 小倉さんは子供のころ、スピッツと暮らしていました。とてもかわいがっていましたが、ずいぶん前に病気で死んでしまいました。そのことを考えていたら、ちょっぴり涙が出て、ちょっとゆがんだスピッツになってしまいました。
 ところが、亡霊はスピッツを知らなかったらしく、
「ふん、いいじゃないか。繊細そうで…もごもごもご」
呪文を唱えると、むくむくむくっと白いスピッツになり、すうっと亡霊はその中に入り込みました。

亡霊の呪い5





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