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2 スピッツと共に外へ

『…じゃあ、行くぞ。僕と…小倉さんはテレパシーでしゃべることになるから、ぶつぶつ言わなくていいから』
 小倉さんはスピッツについて行きました。
『…おお、なんていい空気』
 外にでたとたんスピッツは目をつぶってすうっと息を吸い込みました。しかし、空気を味わったのは一瞬でした。ふりかえり、美術館を見て、口をぱかんとあけました。
『これが…あれか? 今はいつだ?』
『春だよ、…いや、君はいつの生まれなんだ?』
『…わからない、わからない…』
 美術館の建物ができたのは明治なので、そのあたりの生まれなのだろうな、と小倉さんは思いました。
『今は明治、大正、昭和、平成ときて、…もう二十一世紀なんだよ』
『…ふ、ふん』
 スピッツは懐かしい建物が古くなっているのを見て、何か思い出したのでしょうか。少し遠くを眺めましたが、ぷるぷるっと首をふりました。
スピッツと共に外へ1

『…よくわかんないや』
 記憶がよみがえっては来ないようです。でも、それの方がいいのかもしれません。親しくしていた人も家族もこの世にはいないのですかから。
「とにかく、行こうか。あまり私から離れないように」
 小倉さんが言うとスピッツは素直によりそいました。
 春の朝の日差しの中をスピッツを伴って歩くと、懐かしい思い出がよみがえって、「ユキ」とスピッツに呼びかけてしまいました。かつて共に暮らした愛犬は雪のように真っ白な毛並みの雪ちゃんでした。
「…今日はユキって呼んでもいいかな」
 小倉さんが言うと、いいよ、という風にスピッツはうなずきました。
 その時、娘の里美さんから電話がありました。
「父さん、杏、行ってない? さっき靴下をぬぎちらかしたから、しかったらぷいって出て行っちゃったのよ」
 杏は小倉さんの孫娘で幼稚園の年長です。
「靴下くらいで怒るなよ」
 小倉さんはうんざりとして言いました。
「とにかく、急いで思い当たるところを捜して」

スピッツと共に外へ4

 電話を切ると、小倉さんはユキに言いました。
『五つの孫娘、杏が行方不明らしい。すぐ捜さなければならない… 悪いけど、そのあとでもいいかな』
『う…うう』
 嫌だと言っても、小倉さんが杏を捜すつもりなのがその気迫からわかったのでしょう。ユキは反対をしませんでした。
『…ところでそれはなんだ?』
『ん、ああ、電話だよ、ほら、これが杏の写真だ』
 小倉さんが今日撮ったらしい杏の写真を見せるとユキはあんぐりと口をあけました。

スピッツと共に外へ5
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