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3 杏はどこに

「思い当たるところって言ってもだな… なぜ靴下をぬぎちらかしたか、なぜ家をとびだしたか、…わかってくれないお母さんに腹をたてたか…だとしたらどこへ向かうか…」
 幼い女の子の考えることはよくわかりません。
『小倉さん…あの』
 ユキが話しかけてきましたが、それどころじゃありません。
 杏の家から美術館まで子供の足で三十分ほどでしょうか。
「…とにかく、杏の家に向かって歩いてみよう」
 ユキは小倉さんのすぐ後ろをとぼとぼとついてきます。その間に、娘の里美さんから、どこそこの道で見た、だの、誰の家の前で見た、だの杏の情報が入ります。やはり杏は美術館に向かって歩いているようです。
「…これじゃあ、かくれる所がない。私の子供のころは、行ってきますって家をでたら、夕方まで帰らなかったものだ。子供にだってプライバシーは必要なのにな」
 ふと、横を見て、あっ、ユキがいない、と小倉さんは声をあげました。
「ユキ、ユキ。…あ、なんだそこに」
 菜の花畑の前にユキがたたずんでいます。見覚えがあるのでしょうか。
杏はどこに1

「小倉さん、こんにちは。わあ、きれいな犬」
 声をかけてきたのはよく美術館に来る女子高校生です。
「ユキっていうんだ」
「ユキちゃん、かわいい、んーっ」
 女子高校生に頭をなでられ、だきしめられ、ユキはくんくん鼻をすりつけています。
杏はどこに2

「孫娘を捜しているんだ… 幼稚園くらいのころ、家出したことない?」
「…庭の犬小屋にかくれたことはあるけど… あとは公園でブランコとか」
「ああ、私も似たようなことをしたな。ありがとう、行くよ」
 小倉さんはユキを伴って歩き出しました。途中の公園ならブランコもジャングルジムもあります。
『健康的なふとももだったな』
 ユキが言いました。
『おまえ…そんなところを…』
『けど…寂しそうな瞳をしてたな』
『ああ…』
 昼日中に美術館に来ることもあるので、小倉さんは前から気になっていました。
杏はどこに3

『倉庫に出入りする人がいるから、服装が時代と共に変化してきたのはなんとなく知っていたけど、こんなに近くで見るのは…抱きしれられたのは初めてだ。…いいにおいがした』
『におい…わかるのか…』
『ふんっ』
杏はどこに4

 小倉さんの若い頃は、女子高校生のスカートはひざ丈だったし、くるぶし丈のをはいたズベ公もいました。とても怖かったのを小倉さんは覚えていました。それに比べて、今の女子高生はとてもかわいらしい。今の男子高校生は恵まれている。いや、これで勉強に集中できるのだろうか。

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